ブルータスの心臓―完全犯罪殺人リレー (光文社文庫)
第1章~第5章の「殺しの・・・」から始まる表題は、その章の要旨を端的に捉えているため、展開を予測しながら読み進めることができます。
また、ほどよい臨場感とスピード感を備えており、読むものを飽きさせません。
さらに、特筆すべきは、本書のクライマックスにおける締め括りかたです。
まさに最高潮を迎えた刹那の幕引きとなります。通常であれば、クライマックスのシーンを踏まえて、その後の状況や経緯が解説され、余韻に浸りながらまとめられて行きますが、この幕引きこそが東野さんならではの拘りであり、美学であると感じる次第です。
読了日:2016年6月29日 著者:東野圭吾
幻夜 (集英社文庫 (ひ15-7))
物語の展開や内容は面白かったのだが、落とし込みへと向かっていく様が前作(白夜行)とよく似ていたため、結末が容易に想像できてしまったのは残念だった。
また、多くの謎を残し過ぎた点に関して、モヤモヤ感が残った。
美冬への成り代わりは震災という偶然の産物だったのか?人を欺き、陥れ、殺める、そして、整形までするほど美冬の過去は壮絶なものだったのか?上昇志向の真の目的・到達点は一体どこにあり、何であるのか?
なお、本シリーズは3部作の話が出ているようだが、結末は、いずれも報われない男と上昇し続ける女という構図になるのか?
読了日:2016年6月23日 著者:東野圭吾
白夜行 (集英社文庫)
本書は冒頭の殺人事件直後から、様々な人物が登場し、年月もどんどん経過し、話の内容もあらゆる方向へと展開します。
中盤過ぎに探偵の今枝が登場すると、俄然、スリリングさが増します。そして、一見すると物語の重要人物と思われる人達が単なる伏線要員でしかなく、終盤に進むに従い、バッサバッサと切り捨てられいく様は圧巻です。
物語中、殺人事件に関わっていたはずの桐原と雪穂が交わる描写は最後までありません。そこが、オブラートに包まれ、19年間、お互いをどんな気持ちで見つめ合い、想いを馳せていたのか、想像を掻き立てられます。
読了日:2016年6月9日 著者:東野圭吾
天空の蜂 (講談社文庫)
事件発生から収束までの時間が僅か10時間余りだった点を踏まえると、疾走感はそれほど感じられませんでした。しかし、物語自体は非常に読ませる作品であったと感じました。
作者は当時既に原発に対する危機的意識を持っていて、沈黙する群衆に対して敢然と問題点を投げ掛けています。そして、三島が最後に発した「そのことにいずれみんなが気がつく」という言葉は心胆寒からしめるものでした。
まさに、東日本大震災において、現実のものとなっています。
本書を通じて、我々自身が考え、道を選んでいかなければならないことを痛切に感じた次第です。
読了日:2016年5月27日 著者:東野圭吾
ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)
本書には様々な人物達が登場します。一見すると、その人物達の接点は見当たりません。ところが、各章を追うごとに、それぞれの接点が見出され、最終的に全ての繋がりが丸光園とナミヤ雑貨店にあった点が開示される様は圧巻でした。
個人的にミュージシャンの非業の死はいたたまれませんでした。しかしながら、後世に残る名曲を生み出した点において、決して負け戦ではなかったと考えます。
天才女性アーティストによって引き継がれたこの名曲は、やがてミュージシャンの父親の耳にも届き、息子が残した大きな足跡をしっかり感じ取ったと考えます。
読了日:2016年4月27日 著者:東野圭吾
鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)
15年以上ぶりの再読です。本書には、涙なしでは読めない作品ばかりが収録されています。
最も印象的な作品は当時と同様、『ラブ・レター』でした。大の男の吾郎が、こどものように泣きじゃくる心境が私には分かります。
私自身、過去に祖父を亡くした際、式中は涙など出なかったのですが、控室に戻り、故人の笑顔の写真を見た瞬間から不意に涙が溢れ出し、どうにもこうにも止めることができず、何時間も泣きじゃくったことがあります。
この吾郎の描写は、浅田氏自身がその心情を分かっていて描いたであろうことが推察され、より心に響きました。
読了日:2016年4月21日 著者:浅田次郎
時生 (講談社文庫)
地下鉄に乗って (講談社文庫)
本書は戦中・戦後を舞台に、時代の荒波に揉まれて変貌するアムールの生き抜く強さや、お時の人間的強さが絶妙に描かれています。
こうした絶妙な描写は、浅田氏自身がその時代に寄り添い、身を置くようにして考え抜いているからこそ、描くことができるのだと思います。
本書のクライマックスは、みち子が愛する母親の幸せと愛する恋人の幸せのどちらを選ぶかでした。
お時の一言により、みち子は恋人の幸せのため、自らの存在を消し去ることを決めました。2人の女性の強さと一途さを見せつけられたとともに、女の意地と凄さを見せつけられた思いです。
読了日:2016年4月6日 著者:浅田次郎
三人の悪党―きんぴか〈1〉 (光文社文庫)
約20年振りの再読です。今でこそ、平成の泣かせ屋の異名をとる浅田氏ですが、当時はそんな異名もなく、『地下鉄に乗って』も『鉄道屋』も『壬生義士伝』もまだ生まれていません。
しかし、浅田氏には当時から抜きん出ているものがありました。それは、どの作家さんよりも人一倍笑わせてくれる所です。
本書に登場する悪漢3人組は非常にキャラが立っており、それぞれが持ち合わせている妙な義理堅さや生真面目さ、破天荒さが一一笑わせてくれます。
直木賞受賞以降の作品しか知らない人達に是非、もう一つの浅田氏の凄さを知ってもらいたいです。
読了日:2016年4月1日 著者:浅田次郎
アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)
超知能を得たチャーリーが特に苦悩したのは、彼に関わってきた人達への愛憎の気持ちだったと思います。彼が白痴の時、憎しみを感じたことはありません。
ところが、彼の潜在意識下では愛に対する飢えを感じ、それは、痛みとして刻まれていました。超知能を得た彼は、潜在意識を通じてこの事実を知り苦悩します。
しかし、彼は勇気を持って前へ進んだことで、家族との蟠りを解消し、偉業を論文として残し、パン屋の同僚とも深い絆を築きました。
再び彼は白痴となりましたが、彼の潜在意識に残されるものは、喜びに満ち溢れたものになったことでしょう。
- 作者: ダニエルキイス,Daniel Keyes,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1999/10
- メディア: 文庫
- 購入: 75人 クリック: 1,445回
- この商品を含むブログ (251件) を見る
読了日:2016年3月21日 著者:ダニエルキイス
宿命 (講談社文庫)
変身 (講談社文庫)
本書において、作者が伝えたかったのは、先端医療技術に対する警告なのか、或いは、生きるということはどういうことなのかを問うているのか、その意図は、はっきり分かりませんでした。
ただ、私が1つだけ確信したことは、人は仮に脳や心を破壊するような強い圧力が加わろうとも、人の奥底には、そんな力にも決して屈しない、侵されない強い意識の力が備わっているのだということです。
純一が恵を殺めようとした刹那、「かわいそうだ、と俺は思った」と考え、「自分自身を取戻しに行くんだ」と言ったシーンを見るにつけ、そのように感じた次第です。
読了日:2016年2月27日 著者:東野圭吾
分身 (集英社文庫)
鞠子の章、双葉の章ともに中身が濃く、それぞれの章を抜き出して2作品にしてみても、作品として十分成り立つと思わせるほど力強さが感じられました。
本書において、2人の母親の死の真相等、興味深い点は幾つもありました。
しかし、何よりも興味を掻き立てられたのは、クローンである2人が出会った時どんな反応が示されるかでした。
2人が出会い会話をしたシーンはたった1頁でした。ほんの僅かな会話です。それでいながら、十分に納得感が得られるものでした。
同じ気持ち、同じ感情を抱く2人だからこそ、改まった言葉は必要なかったのでしょう。
読了日:2016年2月19日 著者:東野圭吾