物語の展開や内容は面白かったのだが、落とし込みへと向かっていく様が前作(白夜行)とよく似ていたため、結末が容易に想像できてしまったのは残念だった。 また、多くの謎を残し過ぎた点に関して、モヤモヤ感が残った。 美冬への成り代わりは震災という偶…
本書は冒頭の殺人事件直後から、様々な人物が登場し、年月もどんどん経過し、話の内容もあらゆる方向へと展開します。 中盤過ぎに探偵の今枝が登場すると、俄然、スリリングさが増します。そして、一見すると物語の重要人物と思われる人達が単なる伏線要員で…
事件発生から収束までの時間が僅か10時間余りだった点を踏まえると、疾走感はそれほど感じられませんでした。しかし、物語自体は非常に読ませる作品であったと感じました。 作者は当時既に原発に対する危機的意識を持っていて、沈黙する群衆に対して敢然と…
東野氏の作品から共通して感じるのは、クライマックスに至る場面において、無駄な表現が無く端的であるということです。 また、一気にフェードアウトしていく様は実に絶妙です。本書においても、直子の別れの言葉は「ありがとう。さようなら。忘れないでね。…
本書には様々な人物達が登場します。一見すると、その人物達の接点は見当たりません。ところが、各章を追うごとに、それぞれの接点が見出され、最終的に全ての繋がりが丸光園とナミヤ雑貨店にあった点が開示される様は圧巻でした。 個人的にミュージシャンの…
15年以上ぶりの再読です。本書には、涙なしでは読めない作品ばかりが収録されています。 最も印象的な作品は当時と同様、『ラブ・レター』でした。大の男の吾郎が、こどものように泣きじゃくる心境が私には分かります。 私自身、過去に祖父を亡くした際、…
前作でタイムスリップものの良作を読んでいたことから、それほど期待を持たずに本書を読み始めました。 ところが、花やしきのシーンから始まる怒涛の疾走感などから、非常に読ませる作品であると感じました。 何を仕出かすか分からない拓実の言動には、未来…
本書は戦中・戦後を舞台に、時代の荒波に揉まれて変貌するアムールの生き抜く強さや、お時の人間的強さが絶妙に描かれています。 こうした絶妙な描写は、浅田氏自身がその時代に寄り添い、身を置くようにして考え抜いているからこそ、描くことができるのだと…
約20年振りの再読です。今でこそ、平成の泣かせ屋の異名をとる浅田氏ですが、当時はそんな異名もなく、『地下鉄に乗って』も『鉄道屋』も『壬生義士伝』もまだ生まれていません。 しかし、浅田氏には当時から抜きん出ているものがありました。それは、どの…
超知能を得たチャーリーが特に苦悩したのは、彼に関わってきた人達への愛憎の気持ちだったと思います。彼が白痴の時、憎しみを感じたことはありません。 ところが、彼の潜在意識下では愛に対する飢えを感じ、それは、痛みとして刻まれていました。超知能を得…
第六章の「決着」において、本事件の殺人犯が瓜生派の最後の生き残りである松村であったことが判明したときは、何かインパクトに欠け、物足りなさを感じずにはいられませんでした。 ところが、本書には、とびっきりのサプライズが用意されていました。 第七…
本書において、作者が伝えたかったのは、先端医療技術に対する警告なのか、或いは、生きるということはどういうことなのかを問うているのか、その意図は、はっきり分かりませんでした。 ただ、私が1つだけ確信したことは、人は仮に脳や心を破壊するような強…
鞠子の章、双葉の章ともに中身が濃く、それぞれの章を抜き出して2作品にしてみても、作品として十分成り立つと思わせるほど力強さが感じられました。 本書において、2人の母親の死の真相等、興味深い点は幾つもありました。 しかし、何よりも興味を掻き立…
第1章では、不平不満を平気で言動に出す平社員がいたり、或いは、特許を取得するのは我々だと平然と言い放つクライアントがいたりと、実社会でこんな事柄は滅多にお目にかかれないだろうと思わず突っ込みたくなりました。 ところが、第2章以降、そんな突っ…
キリコシリーズの中でも、本書が最もレベルが高い作品だと感じました。 越野友也の謎の行動の真相は何であるのか。途中、二重結婚詐欺などの予測もしましたが、想定外で、ある意味、衝撃的な結末に満足感を得ました。 なお、近藤さんの長編小説は本書を含め…
キリコシリーズ3作目である本書は、落し込みに対する拘りだったり、捻りが加えられており、前2作よりも力強さを感じる作品でした。 特に『第二病棟の魔女』において、雪美ちゃんの母親がMBPであると考えて間違いないと思わせておきながら、一気・怒涛の…
キリコシリーズ2作目の本書は、1作目よりも表現力の巧みさが向上し、また、考えさせる要素が増えており、より興味を惹かれる作品となっていました。 しかしながら、近藤史恵さんの作品といえば、超良作である『サクリファイス』があるため、どうしても出来…
本書における怪現象の真相は、女性心理の奥深くに潜む、心の捻じれに端を発したものでした。 男の私には、仕事社会において、女性が感じている葛藤や苦労、そして、忍耐を強いられていることを理解できていないことに気づかされました。 そんな女性心理の負…
近藤さんの作品は、これまで『サクリファイス』シリーズ等、15作品を読みましたが、何れも巧みな文章表現や奥深さが感じられ、唸らされ続けてきました。 ところが、本書に関しては、幾ら読み進めても心に響かず、何を主張したかったのか、最後まで分からず…
本書は結末に至るまでの過程が凄く楽しめた作品でした。 孤児であり、過去に傷を持つ二人の少年(鈴木博人と樋野薫)が人里離れた山奥で、屋敷の使用人として生活する設定は非現実的な世界であり、その静けさや、異質な空間が想像できるところに興味を掻き立…
本書で最も印象的だった作品は第一話の『たったひとつの後悔』です。 話の内容云々よりも、その落とし方が興味深かったです。 上司の木村に対して発した一言(「木村さんのようになりたい」)は確かに伏線になっており、最後、そこへと繋げていった一種独特…
本書には、難解で複雑なミステリー要素はありません。代りに、主人公の久里子と謎めいた老人との関わりを持たせたことで、この老人の存在が妙に頭に残るようになります。 そして、物語が進むにつれ、老人の存在感が際立ってくると、いよいよこの老人が何者な…
この物語が俄然面白くなってきたのは、振込め詐欺の末端要員である江口が登場してからです。 この江口は、親が残してくれたお金を投資とも言えない博打で溶かしてしまいます。世間を舐め、自堕落な生活を過ごした結果、底辺から這い上がれない状況となります…
各作品によって、読み易さや惹き込まれ具合に差があるなと思っていたら、1994年~2011年までの間の作品が収録されており、最近に近づくにつれ、読み易さや巧さが感じられました。 印象的だった作品は『北緯六十度の恋』です。 冒頭の「憎しみに囚われるのは…
本書においては「心の痛み」を感じずにはいられない作品でした。 なぜ、私自身が痛みを感じるのか。歩と恵との関係における痛みは、傷つけてしまった一言や行動に対する後悔や胸に残る遣る瀬無さです。 私自身、家族や兄弟との間で、後悔している一言や後悔…
本書でも力先生の問いかけが心に響きました。 「臆病なこと自体は悪いことではない。そのお蔭で今までそれほど傷つかずにすんだだろう」と。臆病から良いものが生まれることはありません。己を守り、己自身をより良い方向へ導いていくのは勇気でしかありませ…
サラリーマンであれば、ほとんどの人がノマドワーカーという生き方に一度は憧れると思います。 しかし、憧れはするもののその生き方を実践できる人はほんの僅かだと思います。 では、立花さんはなぜその生き方を実現するこができたのか。 それは「ノマドワー…
この物語で興味深かったキャラクターは整体師である力先生です。 その力先生が言った「物事は一面だけではない。わたしたちは多面角を転がしながら生きている。その中のどの面を選ぶのかは、その人の自由だ」という言葉は印象的でした。 兎角、人は一面によ…
本書は犬の習性を通じて新たな視点が投げかけられる非常に興味深い作品でした。 『犬は昨日を愛する生き物であり、捨てられても飼い主を忘れない』つくづく考えてみると、まさにその通りだと思います。 麻耶子の息子である辰司は、形の上では母親に見捨てら…
これほどまでに、じれったくて、歯がゆくて、なんとも言えず、早く読み進めてすっきりしたいと思ってしまう作品は初めてでした。 居候状態となった水絵には過去に盗みの常習などがあったことから、水絵には居候以外の目的もあるのか、そして、鈴音の好意に付…