賢者はベンチで思索する (文春文庫)
本書には、難解で複雑なミステリー要素はありません。代りに、主人公の久里子と謎めいた老人との関わりを持たせたことで、この老人の存在が妙に頭に残るようになります。
そして、物語が進むにつれ、老人の存在感が際立ってくると、いよいよこの老人が何者なのか気になります。
老人の正体は詐欺師でした。しかし、詐欺師であっても老人は久里子を欺くことはしませんでした。
誘拐した子供を引き渡す際の電話のやりとりで、久里子に口止めしなかったシーンは、通常、歩むことの無い人生を辿った老人の心に生まれた、良心の呵責であったのだと思います。
読了日:2015年11月20日 著者:近藤史恵