danyromero’s diary

小説のレビューおよび、時々お酒のウンチクもアップしています。

2015-01-01から1年間の記事一覧

天使はモップを持って (文春文庫)

本書における怪現象の真相は、女性心理の奥深くに潜む、心の捻じれに端を発したものでした。 男の私には、仕事社会において、女性が感じている葛藤や苦労、そして、忍耐を強いられていることを理解できていないことに気づかされました。 そんな女性心理の負…

演じられた白い夜 (実業之日本社文庫)

近藤さんの作品は、これまで『サクリファイス』シリーズ等、15作品を読みましたが、何れも巧みな文章表現や奥深さが感じられ、唸らされ続けてきました。 ところが、本書に関しては、幾ら読み進めても心に響かず、何を主張したかったのか、最後まで分からず…

薔薇を拒む (講談社文庫)

本書は結末に至るまでの過程が凄く楽しめた作品でした。 孤児であり、過去に傷を持つ二人の少年(鈴木博人と樋野薫)が人里離れた山奥で、屋敷の使用人として生活する設定は非現実的な世界であり、その静けさや、異質な空間が想像できるところに興味を掻き立…

ふたつめの月 (文春文庫)

本書で最も印象的だった作品は第一話の『たったひとつの後悔』です。 話の内容云々よりも、その落とし方が興味深かったです。 上司の木村に対して発した一言(「木村さんのようになりたい」)は確かに伏線になっており、最後、そこへと繋げていった一種独特…

賢者はベンチで思索する (文春文庫)

本書には、難解で複雑なミステリー要素はありません。代りに、主人公の久里子と謎めいた老人との関わりを持たせたことで、この老人の存在が妙に頭に残るようになります。 そして、物語が進むにつれ、老人の存在感が際立ってくると、いよいよこの老人が何者な…

三つの名を持つ犬 (徳間文庫)

この物語が俄然面白くなってきたのは、振込め詐欺の末端要員である江口が登場してからです。 この江口は、親が残してくれたお金を投資とも言えない博打で溶かしてしまいます。世間を舐め、自堕落な生活を過ごした結果、底辺から這い上がれない状況となります…

ダークルーム (角川文庫)

各作品によって、読み易さや惹き込まれ具合に差があるなと思っていたら、1994年~2011年までの間の作品が収録されており、最近に近づくにつれ、読み易さや巧さが感じられました。 印象的だった作品は『北緯六十度の恋』です。 冒頭の「憎しみに囚われるのは…

Shelter(シェルター) (祥伝社文庫)

本書においては「心の痛み」を感じずにはいられない作品でした。 なぜ、私自身が痛みを感じるのか。歩と恵との関係における痛みは、傷つけてしまった一言や行動に対する後悔や胸に残る遣る瀬無さです。 私自身、家族や兄弟との間で、後悔している一言や後悔…

茨姫はたたかう

本書でも力先生の問いかけが心に響きました。 「臆病なこと自体は悪いことではない。そのお蔭で今までそれほど傷つかずにすんだだろう」と。臆病から良いものが生まれることはありません。己を守り、己自身をより良い方向へ導いていくのは勇気でしかありませ…

ノマドワーカーという生き方

サラリーマンであれば、ほとんどの人がノマドワーカーという生き方に一度は憧れると思います。 しかし、憧れはするもののその生き方を実践できる人はほんの僅かだと思います。 では、立花さんはなぜその生き方を実現するこができたのか。 それは「ノマドワー…

カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)

この物語で興味深かったキャラクターは整体師である力先生です。 その力先生が言った「物事は一面だけではない。わたしたちは多面角を転がしながら生きている。その中のどの面を選ぶのかは、その人の自由だ」という言葉は印象的でした。 兎角、人は一面によ…

さいごの毛布 (単行本)

本書は犬の習性を通じて新たな視点が投げかけられる非常に興味深い作品でした。 『犬は昨日を愛する生き物であり、捨てられても飼い主を忘れない』つくづく考えてみると、まさにその通りだと思います。 麻耶子の息子である辰司は、形の上では母親に見捨てら…

はぶらし

これほどまでに、じれったくて、歯がゆくて、なんとも言えず、早く読み進めてすっきりしたいと思ってしまう作品は初めてでした。 居候状態となった水絵には過去に盗みの常習などがあったことから、水絵には居候以外の目的もあるのか、そして、鈴音の好意に付…

砂漠の悪魔

榊原の自殺によって広太の人生は急変し、ヤクザに脅され抗うことさえできずに破滅の道へと進んでいきます。 ところが、異国の地で同じ日本人の雅之と出会い、人の命の軽さを知り、自分の権利は自分で守っていく姿などを目の当たりにすることで、慄いてばかり…

キアズマ

近藤史恵さんはつくづく不思議な作家さんです。 女性でありながら、男性でなければ決して分からないような気持ちや心境まで実によく表現されています。 レースにかける意気込みや思いだったり、レース中での鬼気迫る心境や勝負どころの心理描写などに見るべ…

サヴァイヴ

本書はスピンオフ作品ですが中々よかったです。 『スピードの果て』で、伊庭がレースの中で心の苦しみを克服し、最後、白石に見せた笑顔のシーンは心温まる思いでした。 石尾について、『サクリファイス』では心情等が吐露される事なく亡くなりましたが、本…

エデン

近藤史恵さんはつくづく読ませ上手な作家さんだと思います。 ロードレースに臨む前の心情描写や勝負所の描写を端的で明確に表現し結果を次々に開示していく様は読みやすく記憶に残ります。 本作の主たるポイントは薬物疑惑にあったと考えます。 未来のエース…

サクリファイス (新潮文庫)

本書は自転車ロードレースという日本ではあまり馴染がない競技を取り入れていますが、文章に無駄な描写がないためよく分かります。 また、石尾の死後、白石が死の真相を辿っていく経緯は実に読み応えがあります。 真相に辿りついたと思いきや、新たな疑問が…

残侠―天切り松 闇がたり〈第2巻〉 (集英社文庫)

「俺ァ男だ、俺ァ男だ」この一文を読んでから10年以上たちますが、今日この日まで、この一文を胸に刻んで生きてきたといっても過言ではありません。 それほどにこの言葉のインパクトは強烈なものでした。苦しい時、悲しい時、心が折れそうな時、打ち負けそ…

闇の花道―天切り松 闇がたり〈第1巻〉 (集英社文庫)

10年以上ぶりの再読です。 この一年半、池井戸潤、高野和明、横山秀夫、今野敏、宮部みゆきの作品を読んできましたが、ここに至って、無性に本書を再読したくなりました。 それは何故か。本書には、前述の作家さん達でも描き切ることができなかった『真の…

ソロモンの偽証: 第III部 法廷 下巻 (新潮文庫)

『法廷』に関しては、単行本の方にレビュー済みですので、ここでは、最後に収録されている「負の方程式」についてコメントしたいと思います。 『ペテロの葬列』において、杉村三郎が離婚という憂き目にあい、その時のレビューに腹を括った男の生き様が見てみ…

ソロモンの偽証 第III部 法廷

本『法廷』では、『事件』、『決意』には無かった醍醐味を味わうことができました。 それを味わえたのは、弁護人が被告人の無罪を弁護しているさなかにも関わらず、被告人が犯してきた数々の悪事を暴き、被告人に突きつけ、被告人を恨む人間なら誰でも告発状…

ソロモンの偽証 第II部 決意

「真実を知りたい」という藤野涼子の強い決意により、遂に、学校内裁判のお膳立てが整いました。 第Ⅲ部の『法廷』では、様々な修羅場が巻き起こることが想定されます。 柏木卓也の死の真相とは?5本の電話の意図とは?そして、弁護人の神原和彦の真の目的は…

ソロモンの偽証 第I部 事件

宮部さんの作品は杉村三郎シリーズの3部作に続き、4作品目となります。 どの作品も導入から事件発生の過程までおどろおどろしく、見事に惹きこまれます。 杉村三郎シリーズでは、いずれも女性の心の悪(毒)の部分が強調される形でクライマックスが迎えら…

ペテロの葬列

本作品は『誰か』、『名もなき毒』に続くシリーズ3作目になりますが、事件に関する謎や推理の部分において、最も楽しませてくれた作品でした。 ただ、読んでいて面白いのですが、事件の謎が終息していく様はそれほどインパクトが無く、想定の域を超える程で…

名もなき毒

本作品の真のクライマックスが毒殺犯の特定ではなく、原田いずみの立て籠もり事件から派生する毒殺犯である青年の説得、心情吐露、被害者の孫である古屋美知香との対峙にあった点は、クライマックスとして大いに盛り上がり、惹き込まれた部分でありました。 …

誰か―Somebody

宮部さんの作品を初めて読みました。 冒頭の聡美の相談話の内容から、梶田氏の死の真相には、ただならなぬ様相が呈していると感じられ、大いに惹きつけられました。 しかしながら、梶田氏の死の真相が明らかになっていく様は推測の範囲内であり、冒頭に抱い…

自覚: 隠蔽捜査5.5

本作は『初陣』に続くスピンオフ短編集ですが、私はこの設定が結構好きです。 スピンオフ以外の作品は全て竜崎視点の描写であるため、竜崎を取巻く面々に対する関心や感情移入することがどうしてもできませんでした。 しかし、先の『初陣』と今回の『自覚』…

宰領: 隠蔽捜査5

本作における誘拐事件には臨場感とスリリングさがあり、本シリーズの中で最も引込まれました。 一体犯人はどうやって議員を誘拐したのか?本事件は複数犯による犯行なのか?そして、誘拐犯の真の目的は何なのか?等の考えさせる要素がたくさん盛り込まれてい…

転迷―隠蔽捜査〈4〉

本作では、これまでのシリーズのように竜崎が窮地に立たされる程のシーンは無く、そういった意味では緊迫感はあまり感じられませんでした。 しかし、今回は同時発生した複数の事件によって発生した様々なトラブル(人員調整や厚生労働省からのクレーム、伊丹…