danyromero’s diary

小説のレビューおよび、時々お酒のウンチクもアップしています。

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

超知能を得たチャーリーが特に苦悩したのは、彼に関わってきた人達への愛憎の気持ちだったと思います。彼が白痴の時、憎しみを感じたことはありません。

ところが、彼の潜在意識下では愛に対する飢えを感じ、それは、痛みとして刻まれていました。超知能を得た彼は、潜在意識を通じてこの事実を知り苦悩します。

しかし、彼は勇気を持って前へ進んだことで、家族との蟠りを解消し、偉業を論文として残し、パン屋の同僚とも深い絆を築きました。

再び彼は白痴となりましたが、彼の潜在意識に残されるものは、喜びに満ち溢れたものになったことでしょう。

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

 

読了日:2016年3月21日 著者:ダニエルキイス

 

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宿命 (講談社文庫)

第六章の「決着」において、本事件の殺人犯が瓜生派の最後の生き残りである松村であったことが判明したときは、何かインパクトに欠け、物足りなさを感じずにはいられませんでした。

ところが、本書には、とびっきりのサプライズが用意されていました。

第七章の「終章」において、晃彦がサナエの息子であり、さらに、晃彦と勇作とは双子だったという事実に驚嘆しました。お互い気になる存在であることが何度となく出てきた裏には、こんな仕掛けが用意されていたのかと唸った次第です。

作者の本書の落とし込みに対する深い拘りが感じられる作品でした。 

宿命 (講談社文庫)

宿命 (講談社文庫)

 

読了日:2016年3月4日 著者:東野圭吾

 

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変身 (講談社文庫)

本書において、作者が伝えたかったのは、先端医療技術に対する警告なのか、或いは、生きるということはどういうことなのかを問うているのか、その意図は、はっきり分かりませんでした。

ただ、私が1つだけ確信したことは、人は仮に脳や心を破壊するような強い圧力が加わろうとも、人の奥底には、そんな力にも決して屈しない、侵されない強い意識の力が備わっているのだということです。

純一が恵を殺めようとした刹那、「かわいそうだ、と俺は思った」と考え、「自分自身を取戻しに行くんだ」と言ったシーンを見るにつけ、そのように感じた次第です。 

変身 (講談社文庫)

変身 (講談社文庫)

 

読了日:2016年2月27日 著者:東野圭吾

 

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分身 (集英社文庫)

鞠子の章、双葉の章ともに中身が濃く、それぞれの章を抜き出して2作品にしてみても、作品として十分成り立つと思わせるほど力強さが感じられました。

本書において、2人の母親の死の真相等、興味深い点は幾つもありました。

しかし、何よりも興味を掻き立てられたのは、クローンである2人が出会った時どんな反応が示されるかでした。

2人が出会い会話をしたシーンはたった1頁でした。ほんの僅かな会話です。それでいながら、十分に納得感が得られるものでした。

同じ気持ち、同じ感情を抱く2人だからこそ、改まった言葉は必要なかったのでしょう。 

分身 (集英社文庫)

分身 (集英社文庫)

 

読了日:2016年2月19日 著者:東野圭吾

 

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下町ロケット2 ガウディ計画

第1章では、不平不満を平気で言動に出す平社員がいたり、或いは、特許を取得するのは我々だと平然と言い放つクライアントがいたりと、実社会でこんな事柄は滅多にお目にかかれないだろうと思わず突っ込みたくなりました。

ところが、第2章以降、そんな突っ込み所の事はすっかり忘れてしまう程、感情が佃社長、一村教授、桜田社長に移入してしまいました。

PDMA面談では一緒に悔しさを味わったり、また、生命を繋ぐことの尊さを目の当たりにして人工弁を作る意義を明確に感じとったシーンにはグッとくるものがあり、強い情熱を感じる作品でした。

下町ロケット2 ガウディ計画

下町ロケット2 ガウディ計画

 

読了日:2016年1月31日 著者:池井戸潤

 

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モップの精と二匹のアルマジロ (実業之日本社文庫)

キリコシリーズの中でも、本書が最もレベルが高い作品だと感じました。

越野友也の謎の行動の真相は何であるのか。途中、二重結婚詐欺などの予測もしましたが、想定外で、ある意味、衝撃的な結末に満足感を得ました。

なお、近藤さんの長編小説は本書を含め、主人公やそれに近い人物が肉体的に甚大な損傷を被る作品が多く(「砂漠の悪魔」や「薔薇を拒む」)、悲劇的だと捉えられる向きもあると思います。

しかし、そんな状況下においても、一縷の望みや一筋の光が垣間見えるところに、近藤さん独自のスタイルが確立されており、実に乙なところです。 

読了日:2016年1月17日 著者:近藤史恵

 

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モップの魔女は呪文を知ってる (実業之日本社文庫)

キリコシリーズ3作目である本書は、落し込みに対する拘りだったり、捻りが加えられており、前2作よりも力強さを感じる作品でした。

特に『第二病棟の魔女』において、雪美ちゃんの母親がMBPであると考えて間違いないと思わせておきながら、一気・怒涛の謎解きで、事件の真相が父親と看護師の企てであった結末は想定外であり、興味深い作品でした。

『コーヒーを一杯』は僅か38頁ですが、ハラハラドキドキさせる内容となっており、非常に惹き込まれました。

本シリーズは作品が進むにつれて、完成度が高まっていることから、4作目も楽しみです。 

モップの魔女は呪文を知ってる (実業之日本社文庫)

モップの魔女は呪文を知ってる (実業之日本社文庫)

 

読了日:2016年1月10日 著者:近藤史恵

 

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モップの精は深夜に現れる (文春文庫)

キリコシリーズ2作目の本書は、1作目よりも表現力の巧みさが向上し、また、考えさせる要素が増えており、より興味を惹かれる作品となっていました。

しかしながら、近藤史恵さんの作品といえば、超良作である『サクリファイス』があるため、どうしても出来具合を比較してしまいます。

『サクリファイス』と比べると、本書には、新たな疑問の投げかけが無く、表現力の巧みさの点で劣っていると感じてしまいます。

ただし、次回作は『サクリファイス』と同時期に書かれた作品であり、本書よりもスケールアップが期待できるため、非常に楽しみです。  

モップの精は深夜に現れる (文春文庫)

モップの精は深夜に現れる (文春文庫)

 

読了日:2016年1月4日 著者:近藤史恵

 

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天使はモップを持って (文春文庫)

本書における怪現象の真相は、女性心理の奥深くに潜む、心の捻じれに端を発したものでした。

男の私には、仕事社会において、女性が感じている葛藤や苦労、そして、忍耐を強いられていることを理解できていないことに気づかされました。

そんな女性心理の負の部分にスポットがあてられた作品ですが、頭の回転がよく、気が回り、感情豊かな清掃員のキリコと、ちょっと間の抜けたサラリーマンの大介とのコンビで事件を子気味良く解決していく様は、負の要素を感じるだけに終わらず、然るべく明確な理由を開示しているため、納得感が得られるものでした。  

天使はモップを持って (文春文庫)

天使はモップを持って (文春文庫)

 

 読了日:2015年12月18日 著者:近藤史恵

 

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演じられた白い夜 (実業之日本社文庫)

近藤さんの作品は、これまで『サクリファイス』シリーズ等、15作品を読みましたが、何れも巧みな文章表現や奥深さが感じられ、唸らされ続けてきました。

ところが、本書に関しては、幾ら読み進めても心に響かず、何を主張したかったのか、最後まで分からず仕舞いでした。

なお、近藤さんがこの作品を書かれたのは、パソコンの画面も見えない程の眼病を患っていた時だったそうです。

近藤さん自ら、この作品は稚拙なところがあることを言われていますが、その後のヒット作が生まれたのも、この時の困難を乗り越えたからこそ、生まれたのだと思います。

演じられた白い夜

演じられた白い夜

 

読了日:2015年12月12日 著者:近藤史恵

 

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薔薇を拒む (講談社文庫)

本書は結末に至るまでの過程が凄く楽しめた作品でした。

孤児であり、過去に傷を持つ二人の少年(鈴木博人と樋野薫)が人里離れた山奥で、屋敷の使用人として生活する設定は非現実的な世界であり、その静けさや、異質な空間が想像できるところに興味を掻き立てられました。

殺人犯が誰であるのかは、最後まで見えてきませんでした。

確かに、田中(島田康介)の振舞いに怪しさはありましたが、整形という手段を使われてしまうと、殺人犯だと推察するのは難しかったです。

それでも、結末に至るまでのスリリングな展開は十分に堪能することができました。  

薔薇を拒む (講談社文庫)

薔薇を拒む (講談社文庫)

 

読了日:2015年12月4日 著者:近藤史恵

 

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ふたつめの月 (文春文庫)

本書で最も印象的だった作品は第一話の『たったひとつの後悔』です。

話の内容云々よりも、その落とし方が興味深かったです。

上司の木村に対して発した一言(「木村さんのようになりたい」)は確かに伏線になっており、最後、そこへと繋げていった一種独特な落とし方は、私が好きな作家の一人である横山秀夫さんの落とし方に似ていると感じました。

第三話における赤坂老人の強請は残念な行為でした。

前作では、「義」を重んじての子どもの誘拐だっただけに、本作でも、前作に準じた行動が見られると思っていたため、少し残念な気がしました。  

ふたつめの月 (文春文庫)

ふたつめの月 (文春文庫)

 

読了日:2015年12月1日 著者:近藤史恵

 

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賢者はベンチで思索する (文春文庫)

本書には、難解で複雑なミステリー要素はありません。代りに、主人公の久里子と謎めいた老人との関わりを持たせたことで、この老人の存在が妙に頭に残るようになります。

そして、物語が進むにつれ、老人の存在感が際立ってくると、いよいよこの老人が何者なのか気になります。

老人の正体は詐欺師でした。しかし、詐欺師であっても老人は久里子を欺くことはしませんでした。

誘拐した子供を引き渡す際の電話のやりとりで、久里子に口止めしなかったシーンは、通常、歩むことの無い人生を辿った老人の心に生まれた、良心の呵責であったのだと思います。 

賢者はベンチで思索する (文春文庫)

賢者はベンチで思索する (文春文庫)

 

読了日:2015年11月20日 著者:近藤史恵

 

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三つの名を持つ犬 (徳間文庫)

この物語が俄然面白くなってきたのは、振込め詐欺の末端要員である江口が登場してからです。

この江口は、親が残してくれたお金を投資とも言えない博打で溶かしてしまいます。世間を舐め、自堕落な生活を過ごした結果、底辺から這い上がれない状況となります。

彼には、幸せを感じる気持ちや希望がありませんでした。

しかし、都との関わりを通じて抱いた都への想い、そして、行動や対応は底辺から這い上がるきっかけとなりました。

人というのは、誰かを想う気持ち、幸せを感じる気持ちや希望があれば、這い上がることが出来ることを学んだ一冊でした。  

三つの名を持つ犬 (徳間文庫)

三つの名を持つ犬 (徳間文庫)

 

 読了日:2015年11月13日 著者:近藤史恵

 

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ダークルーム (角川文庫)

各作品によって、読み易さや惹き込まれ具合に差があるなと思っていたら、1994年~2011年までの間の作品が収録されており、最近に近づくにつれ、読み易さや巧さが感じられました。

印象的だった作品は『北緯六十度の恋』です。

冒頭の「憎しみに囚われるのは愚かなことだ」、「でも、そこから一歩も動けなくなってしまった人はどうすればいいか」の意味深な言葉に興味を惹かれ、弟の無念を晴らすべく、その原因となった相手に魂を売ったかのような方法で、時を経て、復讐を晴らそうとする展開は独特でありながらも、巧みさを感じる作品でした。 

ダークルーム (角川文庫)

ダークルーム (角川文庫)

 

読了日:2015年11月9日 著者:近藤史恵

 

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