Shelter(シェルター) (祥伝社文庫)
本書においては「心の痛み」を感じずにはいられない作品でした。
なぜ、私自身が痛みを感じるのか。歩と恵との関係における痛みは、傷つけてしまった一言や行動に対する後悔や胸に残る遣る瀬無さです。
私自身、家族や兄弟との間で、後悔している一言や後悔している行動があります。家族や兄弟だからゆえ、未だに謝れず、心の奥底に何とも言えない遣る瀬無さが残ったりしています。
しかし、苦い記憶は忘れられなくても、家族や兄弟を大事に思う気持ちに偽りはありません。本書は「心の痛み」を通じて家族や兄弟の大事さを再認識させられる一冊でした。
読了日:2015年11月1日 著者:近藤史恵
ノマドワーカーという生き方
カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)
この物語で興味深かったキャラクターは整体師である力先生です。
その力先生が言った「物事は一面だけではない。わたしたちは多面角を転がしながら生きている。その中のどの面を選ぶのかは、その人の自由だ」という言葉は印象的でした。
兎角、人は一面による視点だけに支配されがちです。追い込まれれば、追い込まれるほど、視野が狭くなります。追い込まれたときこそ、人は胆力が試されるのだと思います。
物事には多面角があることを認識し、それを見極め、それを適切に選べば、物事は違った方向に進んでいけることを痛感させられる一言でした。
読了日:2015年10月11日 著者:近藤史恵
さいごの毛布 (単行本)
本書は犬の習性を通じて新たな視点が投げかけられる非常に興味深い作品でした。
『犬は昨日を愛する生き物であり、捨てられても飼い主を忘れない』つくづく考えてみると、まさにその通りだと思います。
麻耶子の息子である辰司は、形の上では母親に見捨てられてしまいます。辰司は麻耶子を殺したいと言いつきまといます。
しかし、彼の一連の行動からは母親を慕う気持ちが見受けられ、自分を思い出して欲しい、自分の痛みに気付いて欲しいという気持ちが読み取れます。
忘れず、追いかけ続けた辰司だからこそ、再び母親との絆が結ばれるのだと思います。
読了日:2015年10月6日 著者:近藤史恵
サクリファイス (新潮文庫)
本書は自転車ロードレースという日本ではあまり馴染がない競技を取り入れていますが、文章に無駄な描写がないためよく分かります。
また、石尾の死後、白石が死の真相を辿っていく経緯は実に読み応えがあります。
真相に辿りついたと思いきや、新たな疑問が見え始め、二転・三転の末に真の真相に辿りつくという手法に惹き付けられます。
なお、石尾は自身の考え等を一言も語らずに亡くなっているため、本当の死の真相は謎です。
その謎を残しているため、なお読み手側を考えさせ様々な憶測ができるところに、この作品の奥深さがあると思います。
読了日:2015年8月30日 著者:近藤史恵
残侠―天切り松 闇がたり〈第2巻〉 (集英社文庫)
「俺ァ男だ、俺ァ男だ」この一文を読んでから10年以上たちますが、今日この日まで、この一文を胸に刻んで生きてきたといっても過言ではありません。
それほどにこの言葉のインパクトは強烈なものでした。苦しい時、悲しい時、心が折れそうな時、打ち負けそうな時、いつだって心の中で「俺ァ男だ」と言い聞かせ、奮い立たせてきました。
この言葉を繰り返すことで、負けてはならない気持ちが湧き、人に媚びず、人に流されず、信念を持って生きてこれたのだと思います。
この言葉をいっときでも忘れれば楽になるでしょうが、そんな気は毛頭ありません。
読了日:2015年8月19日 著者:浅田次郎
闇の花道―天切り松 闇がたり〈第1巻〉 (集英社文庫)
10年以上ぶりの再読です。
この一年半、池井戸潤、高野和明、横山秀夫、今野敏、宮部みゆきの作品を読んできましたが、ここに至って、無性に本書を再読したくなりました。
それは何故か。本書には、前述の作家さん達でも描き切ることができなかった『真の男の生き様』や『女の心意気』が描かれ、それが胸に深く響くからです。
こうまで胸に響くのは何故なのか。浅田氏の秘めた強い思いなどが真実味を増し、そう感じさせるのか。はたまた、読み手の奥底に眠っている悲しみや切なさが呼び覚まされて、共感させられるのか。
浅田氏に思い知らされます。
読了日:2015年8月8日 著者:浅田次郎
ソロモンの偽証: 第III部 法廷 下巻 (新潮文庫)
『法廷』に関しては、単行本の方にレビュー済みですので、ここでは、最後に収録されている「負の方程式」についてコメントしたいと思います。
『ペテロの葬列』において、杉村三郎が離婚という憂き目にあい、その時のレビューに腹を括った男の生き様が見てみたい旨のコメントを書きました。
今回、「負の方程式」の中において、杉村三郎が進むべき道を歩み、探偵としての資質を発揮している姿が見れて安心しました。
なお、娘の年齢からすると、離婚後およそ4年の歳月が経過しているようです。その間の経緯を描いた作品を、是非、見てみたいものです。
読了日:2015年8月3日 著者:宮部みゆき
ソロモンの偽証 第III部 法廷
本『法廷』では、『事件』、『決意』には無かった醍醐味を味わうことができました。
それを味わえたのは、弁護人が被告人の無罪を弁護しているさなかにも関わらず、被告人が犯してきた数々の悪事を暴き、被告人に突きつけ、被告人を恨む人間なら誰でも告発状を書くことができ、告発状を書いたのは誰かという問題は表面的な問題に過ぎないと敢然と言い放ったシーンです。
これによって、三宅樹里の毒気をも昇華させ、法廷が閉幕する寸前に必死に弁護人を免罪へと仕向けるシーンは、まさに、証言は嘘でも言葉には真実がある。と感じさせるものでした。
読了日:2015年7月30日 著者:宮部みゆき