むかし僕が死んだ家 (講談社文庫)
山奥にひっそり建てられた謎の異国調の家において、一冊の少年の日記が発見されます。
日記に描かれている事柄は、その家に残されていた遺品から二十年以上も前に起きた出来事であったと想像されます。ところが、電気も通っていないその家で、日記に描かれた事柄が到底あったとは思えません。
その矛盾は一体どこからくるのか?そもそも、人気のないこの場所になぜその家が建てられたのか?様々な疑問と謎に包まれていて惹きつけられます。
周到に張り巡らされた伏線を経て、その家の存在理由が明らかとなる驚愕の事実は想像を超えるものでした。
読了日:2016年10月23日 著者:東野圭吾
探偵ガリレオ (文春文庫)
加賀恭一郎シリーズを読破し、満を持してガリレオシリーズに突入しました。
シリーズ第一作目である本書では、読む者を唸らせるようなインパクトのある作品はありませんでした。
しかしながら、本書に収録されている5作品は全て科学技術を駆使したトリックであり、科学技術に精通した知識が無ければ成り立たない作品群です。
それを納得できる形のトリックにまとめ上げられているところに作者の力量を感じさせます。
この先には、直木賞受賞作である『容疑者Xの献身』が控えており、一体どのようにグレードアップして、そこへと至るのか興味深いです。
読了日:2016年10月15日 著者:東野圭吾
麒麟の翼 (講談社文庫)
新参者 (講談社文庫)
本書は短編集ですが、どの話も女性が絞殺された事件を根幹とし、そこに関わる人々の人情と事件とが絶妙に絡み合う構成となっています。
最終章において、犯人の動機が息子の金銭問題に端を発したものであろうと推測された時は、何か締まりのない幕引きに感じられました。
しかし、真の幕引きは、その先に待っていました。
唯一人、被疑者の口を割らせるだけの辛い過去を持つ上杉が、被疑者に対し、「たとえ憎まれても、親は子供を正しい方向に導いてやらなければならない」と言った言葉は、被疑者の気持ちを昇華させるに十分値するものだと感じました。
読了日:2016年9月8日 著者:東野圭吾
赤い指 (講談社文庫)
嘘をもうひとつだけ (講談社文庫)
本書は加賀恭一郎シリーズ初の短編集でした。短編集がゆえに要点が絞られており、加賀の敏腕ぶりがより際立っています。本書で最も印象的だった作品は『友の助言』です。
睡眠薬を仕込んだ犯人が誰であるかが開示されるだけに留まらず、犯人特定の一条件として、冒頭で触れていた息子の絵の話しと、被害者の萩原が描いた魚の絵の向きとをリンクさせた点は着眼点として面白く、また、殺人手段が未必の故意に留まっている点は意外性を感じさせます。
最後、萩原が妻に「もう来なくていい」と言った言葉には、男のやるせなさが如実に伝わってきました。
読了日:2016年8月27日 著者:東野圭吾
私が彼を殺した (講談社文庫)
加賀恭一郎シリーズは、毎回、物語のパターンや趣向に工夫が成されており、このシリーズに対する作者の意気込みやチャレンジ精神がよく伝わってきます。
今回は、三人の容疑者による一人称一視点により物語が進行していきます。できる限り隈なく読み進めてみたものの、犯人を特定することはできず、真相に迫るには至りませんでした。
加賀及び容疑者三人が一堂に介し、容疑者達の二重・三重の殺害トリックが明かされるシーンは巧妙さを感じさせます。なお、犯人は神林或いは、まさかの美和子であった方がよりインパクトを与えられたのではと思います。
読了日:2016年8月21日 著者:東野圭吾
悪意 (講談社文庫)
これまでのシリーズは、誰が犯人であるのかを推察・特定することに主眼がおかれていました。ところが、本書では序盤で早くも犯人が特定されます。
本書の主たるポイントは犯人探しではなく、稀に見る動機探しとなっており、これまでにない趣向が凝らされていました。
犯人の動機とは何か?しかし、死人に口なし状態のため、加賀も、我々読者も翻弄され続けます。そうした中、加賀の記録・独白・回想を読むにつけ、犯人の言動の矛盾や綻びが判明し、真の動機が明らかとなるプロセスは圧巻です。
加賀の刑事としての鋭さと凄味が増し、惹きつけられます。
読了日:2016年8月7日 著者:東野圭吾
どちらかが彼女を殺した (講談社文庫)
加賀恭一郎シリーズ3作目における本書では、1・2作目にはなかった臨場感や疾走感、さらに、読む者の心に食い込むような圧迫感があり、かなり惹きこまれました。
六章において、薗子の部屋に、康正、加賀、容疑者(2人)の4人が集結し、それぞれの抗弁や鬩ぎあいが行われると、読むスピードは最高速に達し、先読みしてしまいたくなったほどです。
康正の秀でた推察力によって犯人が誰であるのかの確信が得られていく様と、証拠が隠滅された状況だったにも関らず、加賀の鋭い着眼点によって事件の真相が掴まれていく様は、実に見応えがありました。
読了日:2016年7月30日 著者:東野圭吾
眠りの森 (講談社文庫)
「卒業」と比べると惹きつけられた部分もありました。また、今回、加賀に対する見方が変わり、意外にも人間くさく人の好さが垣間見れたところに親近感を覚えました。
なお、本書の事件の真相が開示されるシーンに関して、思わず唸ってしまうような絶妙さだったり、驚きといったものは残念ながら感じられませんでした。
90年代半ば以降の氏の作品と比べると、総じて、臨場感や疾走感に欠け、読者の心に迫ってくるような圧倒感がまだありません。
ただし、本シリーズに対する期待感は高まっており、次回作では満足感が得られるものと期待しています。
読了日:2016年7月26日 著者:東野圭吾
卒業 (講談社文庫)
ブルータスの心臓―完全犯罪殺人リレー (光文社文庫)
第1章~第5章の「殺しの・・・」から始まる表題は、その章の要旨を端的に捉えているため、展開を予測しながら読み進めることができます。
また、ほどよい臨場感とスピード感を備えており、読むものを飽きさせません。
さらに、特筆すべきは、本書のクライマックスにおける締め括りかたです。
まさに最高潮を迎えた刹那の幕引きとなります。通常であれば、クライマックスのシーンを踏まえて、その後の状況や経緯が解説され、余韻に浸りながらまとめられて行きますが、この幕引きこそが東野さんならではの拘りであり、美学であると感じる次第です。
読了日:2016年6月29日 著者:東野圭吾
幻夜 (集英社文庫 (ひ15-7))
物語の展開や内容は面白かったのだが、落とし込みへと向かっていく様が前作(白夜行)とよく似ていたため、結末が容易に想像できてしまったのは残念だった。
また、多くの謎を残し過ぎた点に関して、モヤモヤ感が残った。
美冬への成り代わりは震災という偶然の産物だったのか?人を欺き、陥れ、殺める、そして、整形までするほど美冬の過去は壮絶なものだったのか?上昇志向の真の目的・到達点は一体どこにあり、何であるのか?
なお、本シリーズは3部作の話が出ているようだが、結末は、いずれも報われない男と上昇し続ける女という構図になるのか?
読了日:2016年6月23日 著者:東野圭吾
白夜行 (集英社文庫)
本書は冒頭の殺人事件直後から、様々な人物が登場し、年月もどんどん経過し、話の内容もあらゆる方向へと展開します。
中盤過ぎに探偵の今枝が登場すると、俄然、スリリングさが増します。そして、一見すると物語の重要人物と思われる人達が単なる伏線要員でしかなく、終盤に進むに従い、バッサバッサと切り捨てられいく様は圧巻です。
物語中、殺人事件に関わっていたはずの桐原と雪穂が交わる描写は最後までありません。そこが、オブラートに包まれ、19年間、お互いをどんな気持ちで見つめ合い、想いを馳せていたのか、想像を掻き立てられます。
読了日:2016年6月9日 著者:東野圭吾