演じられた白い夜 (実業之日本社文庫)
近藤さんの作品は、これまで『サクリファイス』シリーズ等、15作品を読みましたが、何れも巧みな文章表現や奥深さが感じられ、唸らされ続けてきました。
ところが、本書に関しては、幾ら読み進めても心に響かず、何を主張したかったのか、最後まで分からず仕舞いでした。
なお、近藤さんがこの作品を書かれたのは、パソコンの画面も見えない程の眼病を患っていた時だったそうです。
近藤さん自ら、この作品は稚拙なところがあることを言われていますが、その後のヒット作が生まれたのも、この時の困難を乗り越えたからこそ、生まれたのだと思います。
読了日:2015年12月12日 著者:近藤史恵
薔薇を拒む (講談社文庫)
本書は結末に至るまでの過程が凄く楽しめた作品でした。
孤児であり、過去に傷を持つ二人の少年(鈴木博人と樋野薫)が人里離れた山奥で、屋敷の使用人として生活する設定は非現実的な世界であり、その静けさや、異質な空間が想像できるところに興味を掻き立てられました。
殺人犯が誰であるのかは、最後まで見えてきませんでした。
確かに、田中(島田康介)の振舞いに怪しさはありましたが、整形という手段を使われてしまうと、殺人犯だと推察するのは難しかったです。
それでも、結末に至るまでのスリリングな展開は十分に堪能することができました。
読了日:2015年12月4日 著者:近藤史恵
ふたつめの月 (文春文庫)
賢者はベンチで思索する (文春文庫)
本書には、難解で複雑なミステリー要素はありません。代りに、主人公の久里子と謎めいた老人との関わりを持たせたことで、この老人の存在が妙に頭に残るようになります。
そして、物語が進むにつれ、老人の存在感が際立ってくると、いよいよこの老人が何者なのか気になります。
老人の正体は詐欺師でした。しかし、詐欺師であっても老人は久里子を欺くことはしませんでした。
誘拐した子供を引き渡す際の電話のやりとりで、久里子に口止めしなかったシーンは、通常、歩むことの無い人生を辿った老人の心に生まれた、良心の呵責であったのだと思います。
読了日:2015年11月20日 著者:近藤史恵
三つの名を持つ犬 (徳間文庫)
この物語が俄然面白くなってきたのは、振込め詐欺の末端要員である江口が登場してからです。
この江口は、親が残してくれたお金を投資とも言えない博打で溶かしてしまいます。世間を舐め、自堕落な生活を過ごした結果、底辺から這い上がれない状況となります。
彼には、幸せを感じる気持ちや希望がありませんでした。
しかし、都との関わりを通じて抱いた都への想い、そして、行動や対応は底辺から這い上がるきっかけとなりました。
人というのは、誰かを想う気持ち、幸せを感じる気持ちや希望があれば、這い上がることが出来ることを学んだ一冊でした。
読了日:2015年11月13日 著者:近藤史恵
ダークルーム (角川文庫)
各作品によって、読み易さや惹き込まれ具合に差があるなと思っていたら、1994年~2011年までの間の作品が収録されており、最近に近づくにつれ、読み易さや巧さが感じられました。
印象的だった作品は『北緯六十度の恋』です。
冒頭の「憎しみに囚われるのは愚かなことだ」、「でも、そこから一歩も動けなくなってしまった人はどうすればいいか」の意味深な言葉に興味を惹かれ、弟の無念を晴らすべく、その原因となった相手に魂を売ったかのような方法で、時を経て、復讐を晴らそうとする展開は独特でありながらも、巧みさを感じる作品でした。
読了日:2015年11月9日 著者:近藤史恵
Shelter(シェルター) (祥伝社文庫)
本書においては「心の痛み」を感じずにはいられない作品でした。
なぜ、私自身が痛みを感じるのか。歩と恵との関係における痛みは、傷つけてしまった一言や行動に対する後悔や胸に残る遣る瀬無さです。
私自身、家族や兄弟との間で、後悔している一言や後悔している行動があります。家族や兄弟だからゆえ、未だに謝れず、心の奥底に何とも言えない遣る瀬無さが残ったりしています。
しかし、苦い記憶は忘れられなくても、家族や兄弟を大事に思う気持ちに偽りはありません。本書は「心の痛み」を通じて家族や兄弟の大事さを再認識させられる一冊でした。
読了日:2015年11月1日 著者:近藤史恵
ノマドワーカーという生き方
カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)
この物語で興味深かったキャラクターは整体師である力先生です。
その力先生が言った「物事は一面だけではない。わたしたちは多面角を転がしながら生きている。その中のどの面を選ぶのかは、その人の自由だ」という言葉は印象的でした。
兎角、人は一面による視点だけに支配されがちです。追い込まれれば、追い込まれるほど、視野が狭くなります。追い込まれたときこそ、人は胆力が試されるのだと思います。
物事には多面角があることを認識し、それを見極め、それを適切に選べば、物事は違った方向に進んでいけることを痛感させられる一言でした。
読了日:2015年10月11日 著者:近藤史恵
さいごの毛布 (単行本)
本書は犬の習性を通じて新たな視点が投げかけられる非常に興味深い作品でした。
『犬は昨日を愛する生き物であり、捨てられても飼い主を忘れない』つくづく考えてみると、まさにその通りだと思います。
麻耶子の息子である辰司は、形の上では母親に見捨てられてしまいます。辰司は麻耶子を殺したいと言いつきまといます。
しかし、彼の一連の行動からは母親を慕う気持ちが見受けられ、自分を思い出して欲しい、自分の痛みに気付いて欲しいという気持ちが読み取れます。
忘れず、追いかけ続けた辰司だからこそ、再び母親との絆が結ばれるのだと思います。
読了日:2015年10月6日 著者:近藤史恵